『安宅切』 和漢朗詠集 巻子本 第十三紙
巻子本全紙(26尺8寸2分×8寸8分5厘)
鳥の子製 装飾料紙 純金銀泥下絵 金銀大小切箔ノゲ砂子 (暈し・雲紙その他)
和漢朗詠集の書写本で藤原行成筆と伝えられている安宅切の第十三紙になります。書写用の料紙としては西本願寺本三十六人集に並ぶほどの美しい装飾が施された料紙になります。実物の安宅切は一紙、横約八寸前後・縦約八寸八分五厘の大色紙大の料紙で元は巻子本です。欠落部分もあり紙数は全三十三紙、見返し料紙も含めた全長は26尺8寸2分になります。隣同士の料紙にまたがって下絵が施されており、料紙を繋いだ状態で泥書が施されたものと推察できます。安宅切には金銀切箔砂子が施されておりますが、本料紙では金銀切箔は施しておりません。(書き易さと価格面を優先した為でありその点ご了承ください。勿論中小切箔を施したタイプの物も御座います。)今回の写真は約三十年程前に製作された物で純金銀泥を使用している為、一部に銀焼け部分が御座いますがご了承下さい。臨書用紙はもちろん通常の清書用料紙としてもご利用いただけます。
写真をクリックすると別色が御覧に為れます。
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巻子本『安宅切』です。使用されている装飾料紙は巻子用大色紙で、染紙や雲紙に隈ぼかし更に純金銀泥で州浜と菅千鳥などが描かれ、金銀大小切箔ノゲが散らされております。本清書用では切箔を除いて書き易さ、書の見易さを優先しております。勿論、金銀切箔ノゲを振ったタイプの物も御座います。 |
安宅切紙
写真をクリックすると部分拡大が御覧に為れます。(順次掲載予定です)
第十二紙(明灰色) |
第十一紙(栗梅色) |
第十紙・雲紙(水灰色) |
第二紙(明灰色) |
第一紙(薄香色) |
第二十六紙(渋草色) |
第二十一紙(瑠璃色) |
第二十紙(薄香色) |
第十三紙(薄香色) |
第三紙(明灰色) |
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本文 水色文字は使用字母 | 読み下し |
720 翠悵紅閨、万事之礼法雖レ異、舟中浪 上、一生之歓會是同。以言 721 倭琴緩調臨二譚月一、唐櫓高推入二水 煙一。順 722 志良那三能 與寸留以曾部仁 與遠寸久須、 安末乃己奈礼者 也止毛左多女春。海人詠 老人 723 昔爲京洛聲華客、今作二江湖潦 倒翁一。白 |
720 すいちょうこうけい いへど 翠悵紅閨、万事の礼法異なりと雖も 舟の中浪の上、一生の歓会これ同じ。 (大江以言) すいちょうこうけい たれごろも 翠悵紅閨;緑のとばり(垂衣)で仕切られた 婦人の寝室。(豪華で妖艶な寝室) 721 たんぐゑつ のぞ 倭琴緩く調べて譚月に臨み、 から ろ お 唐櫓高く推して水煙に入る。 (源順) 722 しらなみの よするいそべに よをすぐす、 あまのこなれば やどもさだめず。海人詠む 723 はなやか 昔は京洛の声華なる客なり、 おちぶれ 今は江湖の潦倒たる翁となりたり。 (白楽天) きょうらく 京洛;都。特に洛河北河畔にある洛陽の都 ご う こ 江湖;川と湖。特に長江と洞庭湖。 黄文字は欠損部分 |
720 緑の垂れ衣で仕切られた美しい婦人の寝室の如く、あらゆる場合での礼儀作法は色々在ると云っても、 舟の中や波の上でも一生の内の楽しい会合(心に感じ抱く思い)はどれも皆同じであるよ。 721 和の琴をゆったりとした調べで奏でて池の底深くに映った月を目の前にしながら、 中国風の長い艪を高く推して(舟を進めようとして)水飛沫を立てているよ。 (ゆったりとした調べの中で水面に映った月が、櫓の起こす水煙によって消えてしまいましたよ。) 722 白波の寄する磯辺に夜を過ぐす、海人の子なれば宿も定めず。 白波の寄せて来るこの磯辺で一夜を過ごしましたよ、海人の子なので宿なんて決めたことないですよ。 老人 723 昔は都のにぎやかな声の中羽振りの良い客であった、 今では江湖(世の中)の落ちぶれた年寄りとなってしまったよ。(よ) |
快楽の時は如何なる作法においても 心に抱く思いは同じですよ。 他の和漢朗詠集(近衛本・粘葉本等)では すいたいこうけい 翠黛紅閨;緑の黛を施した美しい眉で 招き入れる婦人の寝室。 たんげつ 譚月;底深くたたえられた水に映る月。 ろう 潦;にわたずみ。庭只海 雨が降ってにわかに地上に溜まり流れる水。 朝の磯辺での一節、海人の詠んだ歌。 今宵の宿を定めず、宿なしの歌。 同じ心を表したいときに使う。 |
安宅切 第十三紙 左上側部分拡大 左端に見える黄茶色の部分は陰の為 輝きの消えた金泥の州浜です。 金銀泥下絵は両紙またがって 描かれております。 |
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左上側部分拡大 安宅切 第十三紙 | |
安宅切 第十三紙 右下側部分拡大 判り辛いですが,写真上部端中央に 三羽の千鳥が左を向いて描かれております。 ちょっと光が強すぎて銀箔が白く成り過ぎて 見えております。 |
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右下側部分拡大 安宅切 第十三紙 |
おおえのもちとき おおすみのかみ じどく おおえのまさひろ またいとこ
大江以言;平安時代中期の貴族で文人。大隅守の大江仲宜の子で、一条天皇の侍読の文章博士でもあった大江国衛とは又従兄弟に当たる。その漢詩は国衛にはルールを無視していると酷評されるも、慶滋保胤には「白砂の前庭の青々とした松の陰で陵王を奏でるが如し」とも評されている。官位は従四位式部権大輔。(生年955年~没年1010年)
はくらくてん
白楽天;白居易の俗称。号は香山居士。中国山西省の詩人。その詩は流麗で平易広く愛誦され、日本にも及び起き平安時代の文学にも多大なる影響を与えた。「長恨歌」や「琵琶行」など最も広く世の中の人に好まれ話題になって知れ渡った、「白氏文集」の他風刺性に富んだ「新楽府」50首がある。(生年772~没年846)
みなもとのしたごう
源順;三十六歌仙の一人で、平安中期の歌人で学者。梨壺の五人のうちの一人として、後撰集の選に当たる。また、万葉集訓釈書のことに従った。著書に「倭名類聚抄」、家集に「順集」がある。(生年911年~没年983年)
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