『安宅切』 和漢朗詠集 巻子本 第十紙
巻子本用一紙(8寸1分×8寸8分5厘)
鳥の子製 装飾料紙 純金銀泥下絵 金銀大小切箔ノゲ砂子 (暈し・雲紙その他)
和漢朗詠集の書写本で藤原行成筆と伝えられている安宅切の第十紙になります。書写用の料紙としては西本願寺本三十六人集にに並ぶほどの美しい装飾が施された料紙になります。実物の安宅切は一紙、横約八寸前後・縦約八寸八分五厘の大色紙大の料紙で元は巻子本です。隣同士の料紙にまたがって下絵が施されており、料紙を繋いだ状態で泥書が施されたものと推察できます。安宅切には金銀切箔砂子が施されておりますが、本料紙では金銀切箔は施しておりません。(書き易さと価格面を優先した為でありその点ご了承ください。勿論中小切箔を施したタイプの物も御座います。)今回の写真は約三十年程前に製作された物で純金銀泥を使用している為、一部に銀焼け部分が御座いますがご了承下さい。臨書用紙はもちろん通常の清書用料紙としてもご利用いただけます。
写真をクリックすると別色が御覧に為れます。
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巻子本『安宅切』です。使用されている装飾料紙は巻子用大色紙で、染紙や雲紙に隈ぼかし更に純金銀泥で州浜と菅千鳥などが描かれ、金銀大小切箔ノゲが散らされております。本清書用では切箔を除いて書き易さ、書の見易さを優先しております。勿論、金銀切箔ノゲを振ったタイプの物も御座います。 |
安宅切紙
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第十二紙(明灰色) | 第十一紙(栗梅色) | 第十紙・雲紙(水灰色) | 第二紙(明灰色) | 第一紙(ベージュ色) |
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707 外人不二識承レ恩處、唯有三羅衣染二 御香一。元 708 嬋娟両髪秋蝉翼、宛轉雙蛾遠山色。白 709 莫レ恠紅巾遮レ面咲、春風吹綻牡 丹花。白 710 李延年之餝族、託一妍以始飛。衛 子夫之侍時、在衆醜而永異。主家楽粧 野 711 秋夜待レ月、纔望二出レ山之清光一。夏日 思レ蓮、初見二穿レ水之紅艶一。 催粧 菅 |
黄文字前紙にあり 707 うと 外き人には識られず恩を承くる処、 ら い おこう ただ羅衣の御香に染めたるのみ有り。(元稹) ら い 羅衣;薄物の着物。 薄く織った絹の布で作った衣。 708 嬋妍たる両髪は秋の蝉の羽、 宛転たる雙蛾は遠山の色。(白楽天) せんけん 嬋妍;顔や姿の美しく艶やかなさま。 双蛾;美人の眉の美称。 709 あやし 恠ぶことなかれ紅巾の面を遮って笑うことを、 春の風は吹き綻ぼす牡丹の花。(白楽天) 710 つくろひ つ 李延年が族を餝つし、一妍に託けて以って 始て飛ぶ。衛子夫が時を待ちし、衆醜に在りて 永く異なり。 (小野篁) ぞく 族;同じ先祖から別れた血統の者。 711 秋の月を待つ、僅かに山を出づる清光を望む。 夏の日蓮を思う、初めて水を穿つ紅艶を見る。 催粧序 菅原道真 黄文字次紙にあり |
707 外様の人々には悟られないように思いを受け賜わる所。 ただ薄絹の着物に染込んでいた御香の匂いだけがかすかに漂うのみである。 708 美しく艶やかな両方の髪はまるで秋の蝉の羽を思わせるようだ、 眉が緩やかに弧を描いている様はまさしく双蛾、あたかも遠山の眉を思わせる。 709 天つ風雲の通い路吹き閉ぢよ、乙女の姿暫し留めむ。 天上の風よ(天女たちが帰って行く)雲の中の通り道を吹き閉ざしておくれ。天の舞姫たちの艶やかな姿を、 もうしばらくの間(ここに)留めておきたいのだから。 710 李延年が一族の体裁を整えようとして、一妍(ひときわ美しい人)にかこつけてそれで以って初めて舞い上がる。 衛子夫が時を待とうとして、群衆の醜さの中に在って永い間ずっと続いて普通とは違っていたのだ。 (君主の家では心身ともに安らかで楽しいことを装う) 711 秋の夜の澄み渡った月の光を待つ、(そして遂に)僅かに山を出た月の姿を望む。 夏の日に蓮の事を考える、初めて水面から突き出した紅の差した優美な美しさを見る。 |
蓮の花の情景ともとれるし、沐浴する女人の 姿ともとれる。 双蛾;美人の眉の美称。 遠山の眉;遠くの山の様に薄くなだらかに 引いた眉。(美しい眉に云う) 宮中で一節、五節の舞が催された時の歌。 雲の通い路;夢の通い路などと同じく、 本来あるはずのないものを詠った歌道。 幻想的に物事を表したいときに使う。 をもの たまはい 佩;玉佩。貴人が腰帯に下げた玉などの飾り。 |
安宅切 第十紙 左上側部分拡大 左端に下側僅に見える栗梅色の部分は 第十一紙です。 金銀泥下絵は両紙またがって 描かれております。 |
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左上側部分拡大 安宅切 第十紙 | |
安宅切 第十紙 右下側部分拡大 |
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右下側部分拡大 安宅切 第十紙 『内曇り』部分 |
げんしん げんなたい
元稹;中国河南省の詩人で政治家、最後は宰相にまで成る。字は微之。親友の白居易と相携えて平易な詩風を唱え、世に元白体・元和体と称された。詩文集に「元氏長慶集」、当時流行の現実離れした空想小説である伝奇小説に「鶯鶯伝」がある。(生年779~没年831)
はくらくてん
白楽天;白居易の俗称。号は香山居士。中国山西省の詩人。その詩は流麗で平易広く愛誦され、日本にも及び起き平安時代の文学にも多大なる影響を与えた。「長恨歌」や「琵琶行」など最も広く世の中の人に好まれ話題になって知れ渡った、「白氏文集」の他風刺性に富んだ「新楽府」50首がある。(生年772~没年846)
おののたかむら
小野篁;平安時代前期の貴族、小野妹子の子孫であり文人でもある。小野道風は孫にあたる。参議の父峯守の子、遣唐副使に任ぜられたが大使藤原常嗣の我儘で横暴な態度を怒って病と称して命令に従わず、2年余り隠岐に流されていた。そののちは召還されて父と同じく参議となる。博学で詩文にも長じており、「令義解」の序を書き撰にも加わる。別名に野相公、野宰相がある。(生年802年~没年852年)
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